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政府が2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を発表し、既に1年以上が経過しました。この5か年計画では、2027年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模にすることを目標に、各KPIの実現に向けた施策を盛り込んでいます。
もっとも、プロダクトが完成していないシード期のスタートアップでは適正なバリュエーションの算定に時間もコストもかかるため、適正なバリュエーションでの投資を求める投資家を相手にする場合、普通株式での資金調達が困難ということもあります。
その問題を解決するために開発されたのが、最近シード期のスタートアップでも使用されているCoral Capital(https://coralcap.co/j-kiss/)が作った「J-KISS型新株予約権」、通称J-KISSです。
J-KISSの特徴は、バリュエーションの算定や細かな条件を、次のシリーズAのようなビジネスが始まり大きな金額の資金調達をするときまで先送りにし、検討時間をあまり要さず投資を受けられるという点にあります。
J-KISSの詳しい説明はCoral Capitalのページやその他のブログをご覧いただくとして、本ブログではJ-KISSを実際に使った場合に注意すべき点の説明をさせていただきます。
まず、①【なお、本契約(別紙 1「発行要項」を含む。)は、空白または括弧書き以外の箇所を除き、https://coralcap.co/j-kiss/で公開されているものの一つから変更されていない。】との記載があっても、契約内容が変わっていることがあることです。
Coral Capitalの説明によると、投資契約において上記記載がある契約書は、Coral Capitalが弁護士・司法書士のチェックを受けた契約書なので、チェック箇所としては空白又は括弧書のみで足りるとされています。しかし、私の経験上、上記記載を残したまま、条項の内容を変更していることもあるので、必ず変更点がないかCoral Capitalのひな形と対比していただきたいです。
また、変更がある場合には、不意打ちになるのでその旨相手にしっかり伝えるようにしていただきたいです。
次に、②J-KISSの旧バージョンと新バージョンではバリュエーションキャップ(評価上限額)の計算方法が違うということです。
その違いは前者がプレマネーで計算し、後者がポストマネーで計算するということなのですが、発行される株数で見た場合、会社側に有利(投資家への株式発行数が少なくなる。)なのは旧バージョン、投資家に有利(投資家への株式発行数が多くなる。)なのは新バージョンとなります。
最後に、③旧バージョンと新バージョンを次回の適格資金調達までに混在させると、行使時の株式の発行数の計算がとてもややこしくなることです。これは即ち、計算の際に必要な外部専門家の費用が挙がりますので、できればどちらかで統一したほうがよろしいです。
今回は実務上J-KISSの発行の際に注意すべき点をご説明しましたが、前記①に記載したとおり、契約内容のチェックが必要となりますので、今後の資金調達の関係も含め、専門家の弁護士にご相談することをお勧めします。
弁護士 藤沼 光太