著者
今回はArt Lawに興味がある方向けにArt Lawを学ぶことができるおすすめの教育機関を紹介します。
1. ロンドン大学クイーン・メアリー校 LLM Art, Business and Law
Art LawにフォーカスしたLLMプログラムとしてロンドン大学クイーン・メアリー校が2017年から提供しているLLM Art, Business and Lawがあります。3.で紹介するインスティチュート・オブ・アート・アンド・ロー(Institute of Art and Law)とのパートナーシップによりコースが提供されています。
私が留学した2012年時点ではこのプログラムはありませんでしたが、留学時点で提供されていたら選択肢に入れていたかもしれません。
費用
留学生 £26,250(フルタイム)
コース概要
ウェブサイトでは以下のコースがこのLLM特有のものとしてあげられています。
Art Transactions
Art and Governance
Art and Cultural Values
Art Disputes and their Resolutions
Art and Intellectual Property
Art and Money
2.クリスティーズ・エデュケーション・ニューヨーク アート・ビジネスコース
オムニバス形式で各回講師がレクチャーをします。期間はロースクールLLMとほぼ同期間(約10か月)です。私は2013年に修了しており、そのときは10人くらいの小規模クラス(日本人は1人)で私の他にも米国の弁護士やアート関連の仕事についている方が参加していました。
週3回(平日夜2回、土曜午前1回)のペースで行われ、アーティストのスタジオ訪問といった企画もありました。
費用
15,000ドル
コース概要
各モジュールのテーマは次のとおりです。
Module 1|Art Law
Module 2|The Art Market
Module 3|Art & Valuation
Module 4|The Auction House
Module 5|The Art World Today
※現在はこのアート・ビジネスコースの提供はされていないようですが、オンラインコースやショートコースで様々なトピックスのコースが提供されています。
なお、サザビーズの運営する教育機関、サザビーズ・インスティチュート・オブ・アートもあります。クリスティーズ・エデュケーションを選択したのはロースクールと並行してできそうなコースがサザビーズにはなかったためで、適切なコースができれば選択肢に入れてよいと思います。
3. インスティチュート・オブ・アート・アンド・ロー Art Law Diplomaコース
英国のインスティチュート・オブ・アート・アンド・ローは、1995年設立の歴史ある教育機関で、「Art Antiquity and Law」という法律雑誌の発行やセミナー、コースを提供しています。私は2019年に修了しました。
コース概要
Art Law Diplomaコースは、法律家向けのコース(リモートで受講できます。)となっており、インスティチュート・オブ・アート・アンド・ローの提供するなかで最も専門的な内容です。
アプリケーション
コースを開始するためにはまずアプリケーションを提出してオファーをもらう必要があります。正式な学位ではないものの、結構厳しいですね。アプリケーションの期限は設けられておらず、いつでもアプライすることが可能です。
アプリケーションの条件として、英国のLLB(法学部卒業)又はコモンローの国におけるこれと同等の学位が必要となります。日本を含め、コモンローの国以外の学位しかないときには、基礎コースであるPreparetory Certificate in Art Lawコースを先行して修了するか、十分なコモンローの知識があることを証明することが求められます。
私の場合は、ニューヨーク州弁護士資格、米国ロースクールのLLMがありましたので、基礎コースの受講は必要なく、Art Law Diplomaコースのオファーをいただけました。
アプリケーションに記載が必要な情報としては、学歴、語学能力(IELTS、TOEFL)、職歴、出願理由、推薦者2名が求められています。
私のときは、アプリケーションの提出からオファーが出るまで、約1か月弱でした。
費用
£2,300 + VAT (合計£2,760)。支払いはオンラインで行うことができます。
コース概要
(1)10のモジュールに分かれたコースワークを終えた後に、(2)3題のエッセイ形式の課題(各3,000 words)を提出することでコース修了となります。
(i) 各モジュールでリーディング資料が配布されそれを読んだ上で、(ii) 課題(Self-Accessment Question)を提出し、パスすれば次のモジュールへ進んでいきます。チューターがつき、提出した課題についてフィードバックをしてもらえます。
リーディング資料は、(a) Overview (シラバス)、(b) Required Reading、(c) Conventions and Legislation、(d) Case Law、(e) Suggested Reading、(f) Self-Accessment Questionで構成されています。Suggested Readingまで含めるとかなりの量になります。
各モジュールのテーマは次のとおりです。
1. International Conventions and Private International Law/国際条約及び国際私法
2. Artists’ Rights (including copyright, moral rights and artist’s resale right)/アーティストの権利(著作
権、著作者人格権、追及権)
3. Bailment and Art Loans/寄託、アートローン
4. Recovery of Stolen and Looted Art/盗まれたアート、略奪されたアートの取り戻し
5. Limitation of Actions/時効
6. Repatriation of Art and Artefacts; Codes and Ethics/アートの返還、倫理規程
7. Museums and Bequests/美術館と遺贈
8. Sites, Monuments, Treasure and Finds/サイト、モニュメント、 財宝、発見物
9. Auctions/オークション
10.Taxation/税務
(2) エッセイ
(i) あらかじめ用意されている課題リストが提供されますので、そこからテーマを選択してもよいですし、(ii) 自ら設定したテーマとすることもできます。チューターがうまい具合に整理して問題設定をしてくれました。私は、1つは提供されたリストから選択し、2つは自分で設定したテーマで課題を提出しました。
仕事が忙しくなるとなかなか進まず、開始から修了まで約2年かかりました。IALから提供される資料はかなり充実していて英国のArt Lawを学ぶには大変有益なコースだったと思います。
弁護士 木村 剛大