弁護士ノート

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医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律について

2021.10.21 弁護士:神田 秀斗 個人情報保護

 2018年5月11日に「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(以下「次世代医療基盤法」といいます。)が施行され、既に3年が経過しています。個人情報保護法をご存知の方は多いかと思われますが、次世代医療基盤法については、そもそも聞いたことがない、という方もいらっしゃるかと思われますので、簡単に解説をしたいと思います。

 あまりなじみがない法律ではありますが、当方において、直近で大学や独立行政法人等からご相談を受ける機会もありました。

1 前提〜要配慮個人情報の事前同意及びオプトアウト禁止
 現行の個人情報保護法は、「要配慮個人情報」(法第2条第3項)について、①本人の事前の同意のない取得を原則として禁止し(法第17条第2項)、かつ②オプトアウト方式による第三者提供も原則として禁止しています(法第23条第2項括弧書)。要配慮個人情報とは、要するに、当該情報が開示されることにより差別や偏見を生じるおそれのある情報をいいます。例えば、病歴、犯罪歴、人種等です。これらの情報は不正な取扱いがされると、本人に深刻な不利益が発生する可能性があるため、特別の制限を課しているのです。
 勘違いされている方がいらっしゃいますが、「通常の」個人情報については、その取得にあたって、本人の事前同意は必要ありません。法は、目的外利用や第三者提供に関しては制限を課しておりますが、本人から予め同意を得て個人情報を取得することまでは要請していないのです。

2 医療情報の医学的利用の必要性
 他方で、上記の病歴には、医学的には有用な情報が多数含まれていることは明らかです。患者の症例、投与した医薬品の効果、経過観察の結果等、医学の発達には、実務的な経験が不可欠です。そこで、医療関連情報について、医学研究への利用を促進すべきではないかという要請から、上記の次世代医療基盤法が制定されました。
 なお、このような医療情報の利用促進から、次世代医療基盤法は、医療ビッグデータ法と呼ばれることもあります。

3 法の概要
⑴ 特徴
 次世代医療基盤法の特徴を一言で表すと、医療情報取扱事業者(病院等)は、一定の要件の下、認定匿名加工医療情報作成事業者へ医療情報をオプトアウト方式により提供することができるというものです。
 これにより、逐一患者の同意をとることなく、匿名化された医療情報を研究に活用することができる一方、本人から利用停止の申し出があれば即座に医療情報の提供を停止する体制、及び認定匿名加工医療情報作成事業者に対する監督官庁の認定を通じた規制を通じて、患者本人の利益が守られることになります。

⑵ 医療情報の定義
 次世代医療基盤法の対象となる情報は、「医療情報」と定義されています(法第2条第1項)。正確に引用すると以下のとおりです。

特定の個人の病歴その他の当該個人の心身の状態に関する情報であって、当該心身の状態を理由とする当該個人又はその子孫に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等(文書、図画若しくは電磁的記録(電磁的方式(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)で作られる記録をいう。以下同じ。)に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(個人識別符号(個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)第二条第二項に規定する個人識別符号をいう。以下同じ。)を除く。)をいう。以下同じ。)であるものが含まれる個人に関する情報のうち、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)
二 個人識別符号が含まれるもの

 
 ここでは、「心身の状態」に関する情報に限定されていることが特徴です。すなわち、個人情報保護法で要配慮個人情報の内容とされているような犯罪歴等は含まれていません。要配慮個人情報から医療関連情報のみを抜き出したイメージです。
 なお、個人情報保護法とは異なり、「生存する個人」に関する情報である旨の限定がありませんので、死亡した患者の情報も医療情報に含まれることになります。

⑶ 法に規定される登場人物
 非常にややこしいのですが、次世代医療基盤法は、主に、「医療情報取扱事業者」、「認定匿名加工医療情報作成事業者」及び「認定医療情報等取扱受諾事業者」を規定しています。
 まず、「医療情報取扱事業者」とは、患者から直接、医療情報の提供を受ける病院等です(法第2条第5項)。
 次に、「認定匿名加工医療情報作成事業者」とは、病院等から医療情報の提供を受けて、本人が識別できないような匿名加工医療情報を作成する法人をいいます(法第2条第4項、法第8条第2項)。ここで、「認定」とあることから分かるように、「認定匿名加工医療情報作成事業者」は、主務大臣の認定を受けることにより、適正に匿名加工医療情報を作成することが期待されています。ここでの認定基準等については、「次世代医療基盤法ガイドライン」(https://www8.cao.go.jp/iryou/hourei/pdf/guideline.pdf)に詳細に規定されています。
 最後に、「認定医療情報等取扱受諾事業者」とは、「認定匿名加工医療情報作成事業者」から委託を受けて、医療情報又は匿名加工医療情報を取り扱う法人をいいます(法第28条)。
 以上から分かるように、医療情報は、患者→医療情報取扱事業者(病院)→認定匿名加工医療情報作成事業者→認定匿名加工医療情報取扱事業者と巡ることになります。

⑷ 実際の認定事業者のご紹介
 本日現在、認定匿名加工医療情報作成事業者として、「一般社団法人ライフデータイニシアティブ」、認定医療情報等取扱受託事業者として、「株式会社エヌ・ティ・ティ・データ」が認定されているようです(https://www8.cao.go.jp/iryou/nintei/nintei.html)。

神田

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