著者
以前,「押印の契約書①〜③」にて,契約書等の作成にあたっての押印の意義について解説いたしました。菅政権は,ハンコを原則として廃止するよう各省庁に求められていることから,今後,ハンコの使用は少なくなっていくかもしれません。
この機会に,これまであまり意識せずに押してきたハンコの意味について,改めて考えてみたいと思います。
1 証拠としての意義
裁判において押印の持つ意義については,以前のコラムにてご説明したとおりです。
2 契印や割印
上記は,当事者欄に押印をする意味になりますが,契約書においては,当事者部分以外にも押印がおされている場面があります。
⑴ 契印
契約書において,ホッチキスで綴じられている場合,頁の中央にまたがるようにハンコが押されている場合があると思います。以下のような場合です。
これは,頁が連続していることを示すものです。複数頁ある契約書において,途中で頁が差し変わっていた場合には,契印の位置がずれるため,差し替えが判明するという仕組みです。したがって,そもそも1頁の契約書においては契印を押しようがなく,不要となります。
もっとも,例えば数十頁にも及ぶ契約書の場合,いちいち全ての頁の中央に契印を押していくのはあまりにも煩雑です。その場合には,実務的には,契約書を袋綴じにし,袋綴じと契約書にまたがるように押印する方法が用いられています。袋綴じ部分を破って差し替えが行われた場合,袋綴じ部分の契印がずれるため,差し替えが判明するという仕組みです。
なお,頁数を入れることにより,契約書の連続性を確保することができるという考え方もありますが,頁番号をいじらずに内容だけ差し替えることも考えられるため,確実な方法とは言い難いと思われます。
⑵ 割印
契印とよく混同されるのは割印です。これは,契約書の(通常)上部分に,複数の契約書とまたがるように押印されるもので,複数の契約書が関連していることを示すものです(複数の契約書を離したときに印影が割れることから割印といわれます。)。
契約書の末尾においては,通常次のような文書が入ります。
「以上,本契約の内容を証するため,甲乙記名押印の上,本書2部を作成し,甲乙各自1通ずつ保管する。」
契約書は当事者の意思表示を証拠化したものですので,後の証拠として各自が1通ずつ保管することが一般的です(印紙節約の観点から,一通を原本とし,もう一通を写しとする場合もあります。)。そして,各々が保有する契約書について,その内容が相違していた場合には,どのような合意がなされていたか不確定となってしまいますので,契約書作成日に作成した複数の契約書の内容が同一であることを証明するために割印を押します。
つまり,契約書作成日以降に,一方当事者が契約書を作り替えたとしても,当日の割印と一致しなければ,偽造したことがばれてしまうということです。
⑶ その他
その他,止印や消印等もありますが,重要性は低いため省略いたします。
3 ハンコの種類について
ハンコの種類としては,実印,認印,三文判,角印等があります。また,実印に関する書類として印鑑登録証明書もあります。一般常識的な面もありますが,こちらについても法的な意義を別の機会にご説明したいと思います。
以上ご説明したとおり,ハンコと一口に言っても色々な種類,方法があり,これは人類が書面の正確性・真正性をどうやって担保しようかと知恵を絞った結果に他なりません。「ハンコは悪習」と断ずるのは簡単ですが,せっかく先人が知恵を絞って積み上げてきたハンコという財産をどのようにして生かしていくか考えていくべきではないかと思います。
以上
(神田)