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先日、河部弁護士が話題の「フランク三浦」の時計を購入したことに関してブログをアップしていました。
そこで今回は、話題の「フランク三浦」の判決について、原告の主張する取消事由1(商標法4条1項11号該当性の判断の誤り)及び取消事由3(商標法4条1項15号該当性の判断の誤り)に対する判旨を簡単にご紹介したいと思います。
1 判例の要旨
⑴ 取消事由1について
ア 本件商標と引用商標1(引用商標2及び3については割愛します。)の称呼、
外観及び観念の類似について
判決によると、裁判所は、最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁の規範を引用したうえで、本件商標である「フランク三浦」と引用商標である「フランク ミュラー」について、「両商標を一連に称呼するときは、全体の語感。語調が近似した紛らわしいものというべきであり、本件商標と引用商標1は、称呼において類似する。他方、本件商標は手書き風の片仮名及び監事を組み合わせた構成から成るのに対し、引用商標1は片仮名のみの構成から成るものであるから、本件商標と引用商標1は、その外観において明確に区別し得る。さらに、本件商標からは、『フランク三浦』との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し、引用商標1からは、外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから、両者は観念において大きく相違する。そして、本件商標及び引用商標1の指定商品において、専ら商標の称呼のみによって商標を識別し、商品の出所が判別される実情があることを認めるに足りる証拠はない。」としたうえで、「本件商標及び引用商標1が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認行動死を生ずるおそれがあるとはいえない。そうすると、本件商標は引用商標1に類似するものということはできない。」と判断しました。
イ 被告の反論
これに対し、被告は、①「本件商標は、著名ブランドとしての『フランクミュラー』の観念を想起させる場合がある。」、また、②「原告が被告商品と外観が酷似した商品に本件商標を付して販売していること、本件商標は引用商標を模倣したものであることに照らすと、原告商品と被告商品との間で関連付けが行われ、原告商品が被告と経済的、組織的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、その出所について混同を生ずる恐れがあることは否定できない」と反論しました。
ウ 反論に対する裁判所の判断
判決によると、裁判所は、①の反論について、本件商標の称呼から引用商標1を「連想」することはあり得るとしたうえで、「本件商標は、その中に『三浦』という明らかに日本との関連を示す語が用いられており、かつ、その外観は、漢字を含んだ手書き風の文字から成るなど、外国の高級ブランドである被告商品を示す引用商標1とは出所として関連される主体が大きく異なるものである上に、被告がその業務に置いて日本人の姓又は日本の地名に関連する語を含む商標を用いていることや、そのような語を含む商標ないしは標章を広告宣伝等に使用していたことを裏付ける証拠もない」ことから、「本件商標が被告商品を表示すると認識する者とは認められないし、本件商標から引用商標1と類似の観念が生じるものともいえない。」と判断しました。
また、裁判所は、②の反論について、「原告が被告商品と外観が酷似した商品に本件商標を付して販売しているとの被告の主張は、本件商標の登録査定時以降の事情に基づくものであり、それ自体失当である。また、仮にこの事情を考慮したとしても、本件商標と引用商標とでは…観念や外観において大きな相違があること、被告商品は、多くが100万円を超える高級腕時計であるのに対し…原告商品は、その価格が4000円から6000円程度の低価格時計であって…被告商品とはその指向性を全く異にするものであって、取引者や需要者が、双方の商品を混同するとは到底考えられないことなどに照らすと、上記事情は、両商標が類似するものとはいえないとの前記(ア)の認定を左右する事情とはいえない。」と判断しています。
⑵ 取消事由3について
ア 本件商標の「他人の業務に係る商品または役務と混同を生ずるおそれが
ある商標」の該当性
判決によると、裁判所は、最高裁平成10年(行ヒ)第85号動12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁の規範を引用したうえで、「被告仕様商標2を付した時計が、時計そのものを展示する方法により販売されたり、被告商品の外観を示す写真を掲載して宣伝広告がなされていること、本件商標の登録査定以降の事情ではあるものの、本件商標を付した原告商品も、インターネット販売される際に、商品の写真を掲載したうえで販売されていたことに照らすと、本件商標の指定商品のうちの『時計』については、商品の出所を識別するに当たり、商標の外観及び観念も重視されるものと認められ」るとし、「加えて、被告がその業務において日本人の姓又は日本の地名を用いた商標を使用している事実はないことに照らすと、本件商標を上記指定商品に使用した時に、当該商品が被告…の業務に係る商品であると誤信されるおそれがあるとは言えないというべきである。」と判断され、上記要件の該当性が否定されました。
イ 主たる被告の反論
これに対し、被告は、上記要件の該当性を否定する根拠として、「①原告商品の外観が被告商品の外観と酷似すること、②原告商品は…被告使用商標へのただ乗り(フリーライド)に他ならない」と反論しました。
ウ 反論に対する裁判所の判断
判決によると、裁判所は、①の反論に対して、「①については…本件商標の商標登録出願時及び登録査定時よりも後の事情に基づく主張であるし…原告商品と被告商品は、外観が類似しているといっても、その指向性を全く異にするものであって、高級ブランド商品を製造販売する被告のグループ会社が、原告商品のような商品を製造販売することはおよそ考え難いことや、前記⑵で指摘した点に照らすと、上記事情は、本件商標が『他人の…混同を生ずるおそれがある商標』に該当するものとは認められないとの認定を左右する事情とはいえない。」と判断しました。
また、裁判所は、②の反論に対し、商標法4条1項15号の目的を述べたうえで、「②については…飽くまで同号に該当する商標を許さないことにより、上記の目的を達するものであって、ただ乗りと評価されるような商標の登録を一般的に禁止する根拠となるものではない。」と判断しました。
2 コメント
本裁判例は、商標法4条1項11号該当性につき、本件商標と引用商標とは、称呼が類似するが、外観及び観念が著しく相違しているところ、取引の実情を考慮したとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれはなく、本件商標は引用商標に類似しないことから、同号に該当しないと判断し、また、同項15号該当性につき、販売や宣伝広告の仕方から、商品の出所を識別する際に、商標の外観及び観念が重視されることや取引の実情を考慮すると、本件商標は同号に該当しないとして、本件商標の無効審決を取り消したものです。
本件商標と引用商標の外観及び観念が大きく異なることは、本件の重要な要素ではありますが、その他にも、取引の実情としての原告商品と被告商品の指向性の違いというのも本件では、一つ大きな要素を占めていると考えられます。
河部弁護士も先のブログでも言っていましたが、「フランク三浦」の時計は高級ブランド腕時計と比べるまでもないチープな作りでした。原告代表者がインタビューで答えていたとおり、まさに「ウチはとことんチープにいくのがコンセプトなので」というものを体現したものであり、さすがの我々でもフランクミュラーとは誤認混同するはずがないような商品でした(この原告代表者のインタビューは裁判でも証拠として採用され、両商品の指向性の違いを基礎付ける要素となっています。)。
このように、本件では、商品の価格や販売方法、商品のコンセプト等を詳細に認定したうえで、取引の実情として商品の指向性が違うということを認定して、審決を取消しました。今後、同種の事件が起こった際には、当てはめ部分に関して、一つ参考になる裁判例かと思われます。
なお、裁判所は、原告商品と被告商品の外観が類似していることを認めているような判断をしていますが、本件は審決取消訴訟でしたので、原告商品の販売等が不競法違反になるかどうかについては判断していません。もし、本件が侵害訴訟であったなら、結果はどのようになっていたのでしょうね。 (藤沼)