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1 裁定例の分析
こんにちは、河部です。JPドメイン紛争処理手続を受任するに当たり、せっかく裁定例に目を通したので、今回は、日本知的財産仲裁センターのウェブサイト上で公開されている裁定例について、若干の考察を加えてみたいと思います。
2 訴訟の感覚で判断してはならない
多くの裁定例に目を通してみて、一番強く感じたのは、「訴訟の感覚で臨んではならない」ということです。
JPドメイン紛争処理手続において移転命令が出るための要件は、①類似性、②登録者に正当な権利がないこと、③登録者の不正の目的です。
多くの裁定例で、②登録者に正当な権利がないことについては、登録者が何も立証していないから正当な権利がない、というような判断がなされています。つまり、実質的に立証責任が転換されているのです。
また、③登録者の不正の目的については、必ずしも不正の目的に結びつかないと思われる反論がないことと連絡を取れないことを理由として不正の目的があったと認めている裁定例(JP2007-0002、JP2012-0005)など、東京地方裁判所平成14年7月15日判決(平成13年(ワ)第12318号)の不正競争防止法2条1項12号に関する判断と比較すると、かなり認定が緩やかです。
相手が答弁書を提出しない場合も多く(裁定例を見ればかなりの事案で答弁書が提出されていません。)JPドメイン紛争処理の結果が訴訟に至ることは少ないので、難しいところがあるなという事案でも、申し立ててしまえばドメイン名の移転を受けられる可能性は大いにあります。
費用の問題を受容できるのであれば、多少厳しくても申し立てる価値は十分です。
3 たまに厳しい判断も…
しかし、厳しい裁定例も散見されます。例えば、JP2008-0002。「FIAT」という結構なメジャーブランドでありながら、棄却裁定が出ています。しかも、時期的な傾向というわけではなく、緩やかな認定がなされている合間合間に厳しい裁定例が出ています。パネリスト次第、というところでしょうか。
4 まとめ
以上のとおり、JPドメイン紛争処理手続は認定基準が訴訟におけるそれと比べて緩やかであり、申立人側に有利な判断になる可能性が高いです。ちょっと厳しくても申し立てる価値はあります。しかし、裁定の内容には各パネリストによってばらつきが見られ、甘い見通しで申立てをすると、運悪く厳しいパネリストにぶつかった場合には棄却されてしまうことには注意が必要です。 (河部)