弁護士ノート

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商標コンセント制度導入と今後の課題

2023.10.01 弁護士:小林 幸夫 商標法

 2023年3月10日に商標法(知財一括法の一部として)が改正され、商標コンセント制度が採用されました。実際の法律の施行は公布後1年内とされていますので来年4月からと言われています。

 改正された商標法の条文は以下の通りです。(4条4項)

 「(商標法)第1項第11号に該当する商標であつても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。」

 この制度の背景には、企業ブランドのグローバル化があります。例えば国籍の違うA社とB社が類似する商標の登録を各国ごとに取り合っていることを想像して下さい。扱っている具体的商品は違っていても、商品分類が同一区分にある場合、A社とB社が各国毎に登録を取り合うということになります。しかし、コンセント制度を利用すれば、両社がともに登録を世界中の国で獲得することが可能になります。このような世界的な商標併存を認める契約書のことをWorld Wide Co-existing Agreementと称するようです。そして、日本と数か国だけ同制度を採用していなかったのです。今回の改正で日本への出願が増えることを期待したいです。

 日本企業同士の間でも利用されるでしょうか。既に先に登録商標を獲得した日本企業がそう簡単に類似する、後に出願された商標の登録に同意するとは思えません。応分の対価を要求するでしょうし、少しでも商品の拡大化を考えた場合には容易に同意するとは考えられません。今後の運用実績をみてみたいと思います。

今後の課題

 なお、コンセント制度が導入されたといってもいくつかの課題がまだ残っていると思います。例えば、具体的な併存同意書(コンセント)としてどのような項目が必要か、単に同意するという文言だけで足りるのか、将来にわたって混同しませんという誓約書的文言が必要か、類似でなく全くの同一商標であっても認めるのか、「出所混同を生ずるおそれがないもの」が要件となっていますが、将来にわたっての出所混同が生じないことを出願人がどうやって立証し、どのような証拠をだせば良いのか、そして審査官は何を基準に将来にわたっての出所混同が生じないことを審査するのかでしょうか。

 さらにコンセントによって登録された場合は、その旨の表示を公報などで開示する必要があるでしょう。現在、特許庁において審査基準を見直し、いずれ公開されると聞いています。今後の特許庁の発表や実務の動向を見守りたいと思います。

弁護士 小林 幸夫

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