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1 「弁理士の日」
明治32年7月1日、弁理士法の前身である「特許代理業務登録規則」が施行された関係で、日本弁理士会により7月1日は「弁理士の日」とされています。
毎年、知財業界では「弁理士の日」に合わせて、「弁理士の日」記念ブログ企画というものを開催しておりますが、今年のテーマは、
「知財がテーマのコンテンツ」!
知的財産をテーマとした記事が多数掲載されている弊所ブログも正に「知財がテーマのコンテンツ」ですので、この企画に参加させていただきたいと思います。
2 最近の注目の裁判例
知財のみならず、様々なテーマでコンテンツを作る際、ブログであれば文章を記載したり、動画であれば字幕を付けるということは必須となります。その中で皆様にも注意していただきたい、最近注目の知財高裁判例をご紹介いたします。
ご紹介するのは知財高裁令和5年3月16日判決(令和4年(ネ)第10103号)です。原審は東京地裁令和4年9月28日判決(令和3年(ワ)第30051号)となりますので、こちらもご参照ください。
本事件の概要は、日本放送協会が将棋の番組において、将棋に関するウェブサイトに掲載されていた文章と類似したナレーション及び字幕が流されていたことから、原告が日本放送協会を被告に人格権侵害を理由に損害賠償を求め、控訴審にて、公衆送信権侵害及び氏名表示権侵害に訴えを交換的に変更した事例です。本事件では、主として、原告の文章の著作物性が問題となりました。
本事件ではいくつか原告の文章の著作物性が問題となっていましたが、本ブログでは一つ(原告文章2)に絞ってご紹介します。
結論として、知財高裁は、原告文章2の以下の一部について、著作物性を認めました。
【原告文章2の一部】
「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。
裁判所は、その理由を「『「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。』という部分については、控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがちな誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が『雑用』を率先して行うに当たっての心構えを示したものといい得る表現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、しかし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるものといえる。」としています。なお、証拠上、類似の表現がないということも著作物性を肯定する理由となっています。
文章の著作物性は、一般的に短いほうが認められにくいと言われていますが、上記のとおりの長さの文章で著作物性を認めたというもので、実務上も注意しなければならない裁判例であると考えます。
また、裁判例をみるに、原告が設定した原告文章2は上記の部分以外にもあったものと考えられますが、裁判所は上記部分に限って著作物性を認めています。すなわち、原告はそこまで厳密に著作物の範囲について特定していなかったということであると推察されますので、訴訟提起の際に原告がどこまで詳細に著作物の範囲を特定すべきかという観点からも、注目すべき裁判例です。
以上のように上記の程度の文章でも知財高裁は著作物性を認めていますので、コンテンツを作成している皆様、特に動画でコンテンツを作成している皆様は、面白い表現があったとしても、その表現を使用する際には一度立ち止まって考えていただいた方が良いかもしれません。
藤沼