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1 Twitterにおける「引用ツイート」
もう説明も不要かと思いますが、Twitterは世界中で利用されている匿名登録制SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)です。2020年のアメリカ大統領選に出馬したトランプ元大統領のアカウントが永久凍結されたり(現在はアカウントが復活した模様です。)、イーロン・マスクによって運営会社が買収されたりと何かと話題にのぼるSNSです。
Twitterの利用方法は様々ですが、その1つに「引用ツイート」というものがあります。「引用ツイート」とは、特定のツイートに自分のコメントを付けて自己のツイートとして投稿するものです。「引用ツイート」を用いると、選択した特定のツイート(以下「元ツイート」といいます。)を正確に引用し、これに対して自分のコメントを付けることができるので、他人のツイートを踏まえて自己の意見や感想等を投稿するのに非常に適しています。そして、この「引用ツイート」はTwitterの規約により正当化されています。
2 「引用ツイート」の難点
しかし、「引用ツイート」を利用した場合、元ツイートの投稿者に引用したことを知られてしまいます。また、元ツイートが投稿者によって削除された場合には、「引用ツイート」からも元ツイートの表示が消えてしまいます。さらに、Twitterには、関わり合いたくないアカウントを拒否する「ブロック」という機能があるのですが、相手にブロックされてしまうと、「引用ツイート」もできなくなってしまいます。
3 「スクショ投稿」の登場
この難点を解消する方法として、「引用ツイート」ではなく、元ツイートをスクリーンショットにより画像として保存し(以下「スクショ画像」といいます。)、自分のコメントに元ツイートのスクショ画像を添付して自己のツイートとして投稿する、いわゆる「スクショ投稿」があり、これが頻繁に行われています。「引用ツイート」の場合は、前述のとおり、元ツイートが削除されてしまうと「引用ツイート」に含まれていた元ツイートの表示も消えてしまいますが(「証拠隠滅」等と言われたりします。)、「スクショ投稿」の場合は、元ツイートがスクショ画像として保存されていますので、投稿者が「スクショ投稿」を削除しない限り、元ツイートは半永久的にTwitter上に残ります。それゆえ、「スクショ画像」はネットスラングで「魚拓」と呼ばれています。
4 裁判となった事案(知財高裁判決)
この「スクショ投稿」が著作権侵害に当たるかが争われた事件で、知財高裁令和4年11月2日判決(事件番号:令和4年(ネ)第10044号、第一審は東京地裁令和4年3月30日判決)は、「スクショ投稿」は適法な「引用」(著作権法32条1項)に該当し、著作権侵害には当たらないとの判断を示しました。
知財高裁令和4年11月2日判決(令和4年(ネ)第10044号)
本件で問題となったのは、控訴人X1が投稿したツイートの「スクショ画像」です。当該「スクショ画像」には、控訴人X1のアカウントのプロフィール画像が付されており、この控訴人X1のプロフィール画像は、控訴人X2が撮影した控訴人X1の写真の顔部分に控訴人X1がイラストを付して加工したものでした。そして、氏名不詳者が上記「スクショ画像」を添付してツイートした「スクショ投稿」(以下、「本件ツイート1」といいます。)が著作権侵害に当たるかが争われたのです(被控訴人は経由プロバイダです。)。
本件において知財高裁は、次のように判示しました。
「上記控訴人X1の行為を批評するために、控訴人X1のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。」
「次に、証拠(乙12)によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。」
このように、知財高裁は、「本件ツイート1」が著作権法32条1項に規定する「引用」に該当し適法であるから著作権侵害は成立しないと判断したのです。
5 問題となるのは著作権侵害だけではない
適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならなりません(著作権法32条1項)。本知財高裁判決は、この「引用」の要件に本件事案を当てはめて、「引用」の成立を肯定し、著作権侵害を否定しました。
しかし他方、本知財高裁判決では、本件ツイート1によって控訴人X1の名誉権が侵害されたことが明らかであるとして名誉毀損の成立が肯定されています。
「スクショ投稿」が著作権を侵害しないからといって、他人に対する別の権利侵害の成立までが否定されるわけではありません。時に不必要に攻撃的なツイートや極めて感情的なツイートを目にすることがありますが、行き過ぎた内容や表現のツイートは他人の権利侵害に繋がります。Twitterは便利なツールですから、上手に活用したいものです。
弓削田 博