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1 個人情報活用の必要性
前々回のブログで、改正個人情報保護法の1号型の「個人情報」も、なお不明確な部分があることをご紹介しました。
そうすると、企業からすれば、どのような場合に当該情報を「個人情報」として取り扱えばよいのか不明確です。他方で、経済界ではビッグデータをマーケティング等で活用したいという強い要請があります。
2 Suica事件
少し前の話になりますが、平成25年7月頃、JR東日本が日立製作所に対し、Suicaの情報を販売したことが問題視され、新聞等でも取り上げられました。この事件では、JR東日本は、乗車駅や降車駅に関する情報を提供しただけで、氏名や生年月日等の個人を特定できる情報を提供していませんでした。
それにもかかわらず、個人情報保護法違反では?というユーザーの声により、JR東日本は、情報の提供を中止せざるを得なくなりました。
3 匿名加工情報とは
Suica事件は、ビッグデータ利用の要請が高まる一方で、個人情報保護要請の高まりと、企業のビッグデータを活用したいという要請が衝突したものですが、旧個人情報保護法制定時には、ビッグデータの活用自体が議論されていませんでした。
そこで、改正法では、「個人情報」の利用に対するビジネス上の要請に応えるため、「匿名加工情報」という概念が設けられました。
改正個人情報保護法2項9項は、「匿名加工情報」について、以下のとおり定義しています。
この法律において「匿名加工情報」とは、次の各号に掲げる個人情報の区分に応じて当該各号に定める措置を講じて特定の個人を識別することができないように個人情報を加工して得られる個人に関する情報であって、当該個人情報を復元することができないようにしたものをいう。
一 第1項第1号に該当する個人情報
当該個人情報に含まれる記述等の一部を削除すること(当該一部の記述等を復元す
ることのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)
二 第1項第2号に該当する個人情報
当該個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を
復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含
む。)
また、「匿名加工情報」の作成方法について、改正法36条1項は、「個人情報保護委員会規則で定める基準」に従って、当該個人情報を加工しなければならないとしています。この「個人情報保護委員会規則で定める基準」は、以下のとおりです。
(匿名加工情報の作成の方法に関する基準)
第十九条
法第三十六条第一項の個人情報保護委員会規則で定める基準は、次のとおりとする。
一 個人情報に含まれる特定の個人を識別することができる記述等の全部又は一部を削
除すること(当該全部又は一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方
法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
二 個人情報に含まれる個人識別符号の全部を削除すること(当該個人識別符号を復元
することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えることを含
む。)。
三 個人情報と当該個人情報に措置を講じて得られる情報とを連結する符号(現に個人
情報取扱事業者において取り扱う情報を相互に連結する符号に限る。)を削除するこ
と(当該符号を復元することのできる規則性を有しない方法により当該個人情報と当
該個人情報に措置を講じて得られる情報を連結することができない符号に置き換える
ことを含む。)。
四 特異な記述等を削除すること(当該特異な記述等を復元することのできる規則性を
有しない方法により他の記述等に置き換えることを含む。)。
五 前各号に掲げる措置のほか、個人情報に含まれる記述等と当該個人情報を含む個人
情報データベース等を構成する他の個人情報に含まれる記述等との差異その他の当該
個人情報データベース等の性質を勘案し、その結果を踏まえて適切な措置を講ずるこ
と。
以上の基準も必ずしも明確ではありませんが、今後、経済産業省の「匿名個人情報マニュアル」や認定個人情報保護団体の作成する個人情報保護方針により、事例ごとの類型的な措置が固まっていくことが期待されます。
4 匿名加工情報の第三者提供時の注意
匿名加工情報は、「個人情報」ではありませんので、理論的には個人情報保護法が適用されず、事業者は当該情報を自由に利用できることとなります。もっとも、匿名加工情報が第三者提供されるに際し、提供先の持つ情報と照合されて、「個人情報」となってしまうことを防止するため、事業者は、提供先に対し、提供に係る情報が匿名加工情報であることを明示しなければならないとされています。
また、あらかじめ第三者に提供される匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目及び情報の提供について、個人情報取扱事業者は公表しなければなりません(改正法36条4項、37条)。
(河部、神田)