弁護士ノート

lawyer notes

改正不正競争防止法について①

2017.04.27 弁護士:神田 秀斗 不正競争防止法

1 不正競争防止法の改正

 弊所では特許訴訟を主な業務としておりますが、企業の技術上の情報を守る手段は特許だけではありません。

 特許権を有している場合、これを侵害している者に対しては、過失や損害額の推定が働くなど非常に有利な立場に立つことができます。もっとも、特許出願してしまうと、対外的に公開されてしまう上、出願から20年を経過すると、当該特許権は期間満了として行使できなくなってしまいます。このように、特許権は非常に「強い」権利でありながらも、種々の法律上の制約があります。

 このような法律上の制約を免れるため、技術上・営業上の情報を「営業秘密」として自社管理しながらも、これを冒用する第三者に対して法律上の請求(差止請求や損害賠償請求)ができる法律が必要となります。このような営業秘密を冒用する行為などを「不正競争」と捉え、種々の法律上の保護を与えるものが不正競争防止法です。

 今般、このような営業秘密の価値をさらに向上させるべく、不正競争防止法が改正されることとなりました。簡単ではありますが、改正の概要をご説明させていただきます。

2 施行日

 以下ご説明する改正不正競争防止法は、平成27年7月3日に成立し、同月10日に公布され、平成28年1月1日より施行されています。

 したがって、現時点において、不正競争防止法の適用を考えるにあたっては、改正法を見る必要があります。

3 民事上の救済

(1)侵害品の譲渡等の禁止(改正法2条1項10号)

 改正不正競争防止法2条1項10号は、

 「十 第四号から前号までに掲げる行為(技術上の秘密(営業秘密のうち、技術上の情報であるものをいう。以下同じ。)を使用する行為に限る。以下この号において「不正使用行為」という。)により生じた物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為(当該物を譲り受けた者(その譲り受けた時に当該物が不正使用行為により生じた物であることを知らず、かつ、知らないことにつき重大な過失がない者に限る。)が当該物を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、又は電気通信回線を通じて提供する行為を除く。)」

を「不正競争」と定義しています。

 これは、不正に取得された技術上の情報を使用して製造された物品を譲渡等する行為や、当該物品を譲り受けた者が、譲り受けた時点において悪意・重過失であった場合に、その者が譲渡等する行為を禁止するものです。その趣旨は侵害品の流通を禁止し、もって営業秘密の保護を強化するものです。もっとも、営業秘密のうち、「技術上の情報」に限定されていることに注意が必要です。

(2)推定規定の追加(改正法5条の2)

 改正不正競争防止法5条の2は、

 「技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係るものに限る。以下この条において同じ。)について第二条第一項第四号、第五号又は第八号に規定する行為(営業秘密を取得する行為に限る。)があった場合において、その行為をした者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生産その他技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める行為(以下この条において「生産等」という。)をしたときは、その者は、それぞれ当該各号に規定する行為(営業秘密を使用する行為に限る。)として生産等をしたものと推定する。」

と規定しています。

 長い条文ですが、分解すると、

  ① 技術上の秘密(生産方法その他政令で定める情報に係るもの)について、

  ② 第二条第一項第四号、第五号又は第八号に規定する行為(営業秘密を取得

   する行為に限る。)があった場合において、

  ③ その行為をした者が当該技術上の秘密を使用する行為により生ずる物の生

   産その他技術上の秘密を使用したことが明らかな行為として政令で定める行

   為(以下この条において「生産等」という。)をしたとき、

において、

その効果として、

  その者は、それぞれ当該各号に規定する行為(営業秘密を使用する行為に限る。)

 として生産等をしたものと推定する、

という規定となっています。

 方法の発明などは、被疑侵害者が当該方法を用いているのか、相手方の工場や研究所に立ち入って見ない限り、権利者側としては把握することが困難ですが、相手方がそう簡単に立入りを認めてくれるはずがありません。制度としては証拠保全(民事訴訟法234条)という手もありますが、難しいのが実情です。そうなると、特許ではなく、営業秘密として保護しようという企業も多くなります。

 この改正は、営業秘密を不正取得した者は、リスクを負って不正取得した以上営業秘密を使用するであろうとして、当該営業秘密にかかる生産方法を使用したものと推定し、相手方が営業秘密を用いていることについて、ノウハウを営業秘密として保護しようとした権利者側の立証のハードルを低くし、もって万が一営業秘密が漏れてしまった場合の手当てをするものです。特許法には、物を生産する方法について似たような規定がありますね(特許法104条)。

 ①については、当該情報が、技術上の情報かつ生産方法であることを要求するものです。したがって、営業上の情報である顧客のリストや、製品の説明図など生産方法を示さないものは第5条の2の適用を受けられません。なお、政令で定める情報について、未だ審議中のようです。

 ②は、営業秘密の取得時点における被告の主観的悪質性を問題とするものです。すなわち、不正取得行為(2条1項4号)、不正取得介在後の悪意重過失による取得(同5号)、不正開示行為が介在したことにつき悪意重過失の取得(同8号)が対象であり、取得後に悪意・重過失になる場合(6号、7号、9号)は除かれています。

 ③については、①に対応しており、当該営業秘密が生産方法であれば、営業秘密と被告の生産した物との関係で一定の関連性を要求するものです(政令で定める情報についても、当該情報と被告の行為との関連性を要求しています。)。

 以上の①乃至③を原告側が立証できたときには、第5条の2の効果として、被告による営業秘密の不正使用行為が推定されます。したがって、被告側において、当該営業秘密を「使用していない」との「立証」を行う必要があります。

(3)除斥期間の延長(改正法15条)

 旧法においては、営業秘密の不正使用に対する差止請求権については消滅時効が3年、除斥期間が10年とされていましたが、今回の改正により除斥期間のみが20年に延長され、営業秘密の保護が厚くなりました(改正不正競争防止法第15条)。

 なお、以上の除斥期間に関する改正のみ、公布日である平成27年7月10日より施行されました。したがって、平成27年7月10日時点において、除斥期間が経過していない営業秘密については、改正法が適用され、除斥期間が20年に延長されることとなります。

4 次回

 次回は刑事上の救済についてご説明いたします。

(神田)

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