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屋外恒常設置(著作権法46条)は時代遅れ?

2023.11.01 弁護士:木村 剛大 Art Law

屋外恒常設置とは?

著作権法が定める権利制限規定のひとつとして、いわゆる屋外恒常設置(著作権法46条)があります。条文は次のような文言になっています。

第46条(公開の美術の著作物等の利用)

美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。

一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

この条文の大まかな構造としては、屋外に恒常的に設置されている美術の著作物の原作品や建築の著作物は、原則として自由に利用することができる。

しかし、例外として46条1号から4号に当たる場合には著作権者の許可が必要、ということです。

著作権法46条の趣旨は、①公開の場所に恒常的に設置された著作物の利用に対して著作権に基づく権利主張を何らの制限なく認めることは、一般人の行動の自由を過度に抑制することになって好ましくないこと、②このような場合には、一般人による自由利用を許すのが社会的慣行に合致していること、③一般人による自由利用は、多くは著作者の意思にも沿うと解して差し支えないこと等があげられています(東京地判平成13年7月25日判時1758号137頁〔はたらくじどうしゃ事件〕)。

 

例外として定められた著作権法46条1号から4号は合理的か?

例外として定められた1号から4号は一見して納得感のある内容のようにも思えるかもしれません。

しかし、よく考えてみると疑問も生まれてきます。

例えば、屋外の壁画を展示用に複製し、展示に際して観覧者から入場料をとる方式だとどうでしょうか。壁画の複製物を販売するわけではないので、46条4号に当たらないとの解釈が自然でしょう。

しかし、彫刻であれば展示用に複製する行為について「彫刻を増製し」に該当して著作権者の許諾が必要である一方(46条1号)、壁画であれば許諾不要にする合理的理由があるのかは疑問です。

また、デジタルデータの販売は「複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合」(46条4号)に当たるのでしょうか?この点に関しては論者によって見解が分かれています。

「複製物」との文言と著作権法の他の条文との整合性からは有体物に限られるとの解釈が自然ではあるでしょう。

もっとも、有体物に限られるとの解釈では第三者がNFTを付してパブリックアートのデジタルデータを販売することも適法に行えることになりますが、有体物と取り扱いを異なるようにする合理的な理由はないように思えます。さらに、条文の趣旨を踏まえて、やや文言を離れた解釈を裁判例がしていることも考慮すると、「複製物」は有体物に限らないとの解釈が妥当であると私は考えています。

さらに、渋谷駅に設置されている岡本太郎「明日の神話」のように駅の構内(屋内)だが、一般公衆に開放されている場所について「屋外の場所」に該当するかは見解が分かれています。駅構内である以上「屋外の場所」の文言からは外れることになります。

しかし、条文の趣旨から半屋外、地下広場など公衆が自由に出入りできるような場所への適用又は類推適用を認める見解も有力です。

このように、屋外恒常設置の規定の解釈を巡っては様々な見解があるところです。時代も変化しており、この屋外恒常設置の規定もアップデートされるべき時期に来ているのかもしれません。

弁護士 木村 剛大

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