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安易な自社株買いにはご注意!

2024.10.15 弁護士:藤沼 光太 スタートアップ法務

 スタートアップ企業の成長が進む中、創業株主間で意見が合わなくなった、従業員にインセンティブとして株式を渡していたがその従業員が退職することになった、などといった事情をきっかけとして、自社株買い(自己株式取得)を検討する機会があるかと思います。自己株式取得は、既存株主の株式価値を維持・向上させる手段として有効に機能することがある一方で、税務面でのリスクを見過ごすと予想外のトラブルに発展しかねません。特に、「みなし譲渡」や「みなし贈与」といった税制は、知らぬ間に大きな税負担を伴う可能性があります。
 経営者として、最低限知っておくべき自社株買いの落とし穴について簡単に解説します。

よくあるケース:創業株主や従業員からの株式買取
 例えば、創業株主や従業員が会社を去る際に保有している株式を会社が1円や取得単価で買い取るケースが挙げられます。この場合、所得税法第59条1項2号が関わってきます。この条文を簡単に解説すると、
「著しく低い価額で譲渡された資産は、その時点の時価で譲渡されたものとみなし、譲渡所得として課税される」
という規定です。つまり、会社に対して著しく低い価格で株式を譲渡した場合は、時価で譲渡したものとみなされ、その株式を売却した創業株主や従業員に対して課税されるのです。これを「みなし譲渡」といいます。

既存株主への「みなし贈与」課税のリスク
 さらに、自己株式の取得によって既存株主の株式価値が増加する場合、既存株主に「みなし贈与」があったとみなされ、贈与税が課される可能性もあります(相続税法第9条)。
 このように、安易な自社株買いには、譲渡人に対する「みなし譲渡」による課税と既存株主に対する「みなし贈与」による課税という二つの大きなリスクが存在します。

最後に
 事業承継においても自社株買いが行われることが多く、同様のリスクがあるため、最低限の知識としてぜひ覚えておいてください。なお、「著しく低い価額」とは通常、時価の2分の1を指しますが、時価の算定は株主の属性などによって変わる場合があるため、具体的な判断は税理士や公認会計士などの税務の専門家に必ず相談することをお勧めします。

弁護士 藤沼 光太

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